漁師ことば辞典
漁師は普通に使っている言葉でも一般にはわかりずらい言葉を解説します。
最後に”k”が付いているものは、熊谷指導漁業士の奥さんからの寄稿です。
- あいずばま…砂地に岩(根)が点在する海底。ヒラメ、アジなどの漁場。
- あしがいる…大漁のため満船して、船が進む。(沈むくらいの状態)k
- あわせ…合わせ灯台。夜間など視界が悪いときに安全に入港できるように、航路を指示する明かり。上下2つの明かりが重なるように航路をとる。
- あんばさま(天津)…昔、天津にサバ釣り船がたくさんあった頃、乗組員が漁に出たくないときに船主にした意志表示のサインのこと。船の煙突にカゴを被せたり、港口の灯台に万漁籠を被せたりした。これを船主が無視すると、帆を切られたりするので、船主が話し合って天津の全船が休漁となった。このサインは、漁が続いて体力が限界になったときや、芸能人のショーがあるときなどに出された。
- あんばさま(鴨川)…大漁祈願の行事。毎年2月ごろ、漁にならない日が続くとき行われるが、いつとは決まっていない。
「あんばさま」という御輿(大人5人くらいで担げる小さいもの)を子供たちが担ぐが、これを、10代の若い漁師達が横取りして、どこか竹藪の中などに隠す。
次の日に、その御輿を子供達が探し、見つけると、もうそう竹で作った柄杓をもって、各家々に御輿が見つかったことを知らせてまわる。そうすると各家の人はその柄杓にいくらかの小遣いを入れてやる。
今では「あんばさま」は行われることはなく、その御輿も遺っていない。ただ、同じ時期に「潮まつり」といって、船団で集まって宴会をするのは毎年おこなわれる。
(鴨川、岡崎清一(清一丸)さんより)
- いちご…ツメタガイのこと。富津地区での呼び名。あさりを食べる嫌われ者。身は固いが食べられる。これの卵を砂茶碗と呼ぶ。
- いちろくもの…一六もの。漁獲された魚の大きさが、大きいものと小さいものだけで中くらいのが少ないこと。さいころの1と6から。
- いなさ…南東からの 風 。k 南東に開けた外房では最も怖い風。内房は凪る。
- いとこ…いわしなどが大きな魚に追われて水面に密集した群れ。これをタモ網で掬って,カツオ漁の餌にしたりすることもある。
- えさもち…餌持ち群。餌となる小魚を追いかけている魚群。春のシラスを食っているカツオは釣りにくい。
- おかず…漁獲がほとんどないこと。おかずにするくらいしかとれない。
- おっきゃがり…大漁の時喜んで祝うこと。「まんなおし」の反対。k
- かぶら(かぐら)…ホロともいう。疑似餌の部品。主に曳き縄に使う。夜光貝、海松、牛の角,カジキの角、カバの歯などを材料に各自工夫している。
- かめ…魚倉。漁獲物や餌などを入れておくところ。甲板下にあるもの。
- 観天望気(房州版)…天津と鴨川のベテラン漁師から教えてもらったものです。他の地域ではあてにならないと思います。現在は天気予報がありますので、そちらを参考にしてください。これらは地元のベテランだから出来る判断です。素人が真似をすると危険ですよ。
「沖が暗さはいなさか雨か。からす猫の目が光る。」
→沖の方に真っ黒な雲がたれ込めて、稲光もしている。いなさ(南東の強風)が吹くか、雨になるのか。
「ぎらぎら凪と女のけたけた笑いには気を付けろ。」
→その後嵐になる。
「太陽の水上がりはその日雨」
→太陽が水平線からはっきり昇る日は雨になる。
「出ごしは雨。入りごしは風。」
→「こし」というのは朝日や夕日の両脇に出る光。朝日に「こし」が出ると雨が近く、夕日に「こし」が出ると翌日は風になる。
「運び雨は明け方急に風が出る。」
→夜、降ったり止んだりの雨の翌明け方は急に風が吹く。
「宵のしゅうては朝の凪」
→夜、突風と大雨を伴うときは、翌朝は凪になる。
- くちあけ…解禁日。おもに磯根漁業で使う。禁漁区のくちあけなど。
- くま…岩礁と砂地が入り組んだ海底のうち砂地の部分。岩礁の部分は「根」。
- ぐみ…小さい錘の粒が等間隔にたくさん付いた釣り糸。潮が速い漁場での釣りや底層を曳く曳縄で使う。
- こいでしき…漕出式。新年の 最初の出漁日 におこなう儀式。大漁旗を飾り,沖から神様に詣でるのが一般的。
- さかしお…逆潮。外房で,岸から海を見て右に向かって流れる潮。方向により出逆潮,込逆潮などがある。(⇔真潮)
- さめつき…鮫付き。ジンベイザメにカツオなどが群がる状態。k
- ジーピーエス(GPS)…人工衛星を使って緯度経度を出す装置。カーナビと一緒。
- しおめ…潮目。流れや水温,濁りなどが違う潮同士の境目。回遊魚の漁場になりやすい。
- 潮まつり…潮流が早くて不漁の時、仲間が集まって大漁を願うこと。k
- すかんぱ…とも帆。スパンカーが正式。操業中船を風上に向けておくための帆。これの効果とプロペラの推進力を調節して、船を潮流に乗せる。角度を調節することにより船の流れ方を変えられる。
- せんこうばん…潜行板。曳縄に使い,疑似餌を一定の深さで泳がせたり動きを付けたりする。カツオ用,メジ用,ひらめ用,それぞれ形や動きが違う。
- せ…瀬。水深が浅くなっているところ。九十九里ではサンドバー。外房・南房では大きな岩場。内湾では干潟などを呼ぶ。布良瀬。中ノ瀬。三番瀬
- ダンベ…漁港で水揚げした魚を入れるもの。量に応じて500s,1トン入るものが用意されている。
- つの…角。疑似餌の一種。曳き縄に使う弓角、イカ釣りに使うイカ角などがある。
- てっぱつ…大きいこと。k「200sのてっぱつなカジキ」
- とったり…1.曳き縄で、竿で船の横に張り出している仕掛けをたぐるための綱。
2.カジキやマグロの延縄で弱っていない獲物があがってきたときに枝縄に付ける長い縄。これをやったりとったりして獲物をあげる。
- トップ入れる…繰船で、クラッチをニュートラルにすること。「ストップ」からか。
- とりつき…鳥付き群。鳥が一緒にいる魚群。カツオなどに追われた小魚目当てに鳥が集まる。付いている鳥の群は「
とりやま 」。
- とりやま・とんな…魚群や潮目に付いている鳥の群。ただ飛んだり水面に浮いているだけでなく独特の動きをしているものが漁場の目安。
- ながれもの…海面の漂流物。またはそれに付く魚群。潮目付近に多く漁場の目安。大きなものにはカツオ,キメジなどが集まる。「ぼくづき」など。
- なぐら・なぶら・なむら…群れ。k 水面にでている魚の群。いろいろな形態がある。魚だけいるのは「すなむら(素群)」
- なだ(灘)…陸の近く。沖の反対。どこまでが灘というわけではなく、相対的な使い方をされる。陸を基準にして「あっち」「こっち」みたいな感じ。「金目場の灘」「沖網、灘網(定置網で)」
- ならい・なれ…北寄りの風。房州では訛って「なれー」。
- にまいじお・にだんじお…二枚潮・二段潮。海中の浅い所と深い所で流れ方や水温が違う状態。操業に不都合な場合が多い。
- ね…根。海底の岩礁。または岩礁群。好漁場になっている。機械根、真潮根、三枚根など。なぜ、岩礁を「根」というかは不明。
- のんぞめ…乗り初め。年の初めに船にある船神様に御神酒とお供え餅を上げ、豊漁を願う。k
- ばけ…疑似餌の一種。釣り針に錘が付いていて、それに羽根や魚皮を巻き付けたものが一般的。カツオ一本釣りなどに使う。
- ばくだん…曳き縄に使う集魚装置。引っ張ると水をはねて音を出したり、疑似餌に動きをつけたりする。主にメジマグロに使う。
- はぐち…獲れる魚の平均サイズ。大きいときは「はぐちが良い」または「はが良い」
- はね…1.釣り竿のこと。さばのハネ釣り。カツオのハネ(一本釣りの竿)
2.魚が跳ねている状態。はね群。
3.カジキの曳き縄などで、魚が掛かると切れるようになっている糸。ハネ切れ。これが切れるときの衝撃で針が刺さる。「とばし」、「とばせ」ともいう
- ひこうき…曳縄に使う集魚装置。水面をひっかき音を出しさかなを集める。カツオ,マグロなど回遊魚に使う。
- プロッター…GPSのデータからモニタの地図上に船の位置を表示する装置。
等深線が表示されたり、漁場を記録できたりして、最近の漁師には欠かせない。(⇔やまたて)
- ヒロ…漁師が用いる長さの単位。両手を伸ばした長さで,人によって多少変わるが,約1.5m。
縄,釣り糸の長さはこれで測るし,水深もこれを用いている。
- へいけ…夜、夜光虫(植物プランクトンの一種。発光する。)が海にたくさんいて、魚が泳いだ後が光ること。魚群が大きいと海一面光ることもある。
- ぼくづき…流木に小魚が集まっている状態。k 「流れもの」の一種。
- まあまあ…漁師の表現は控え目である。かなりの好漁でも「まあまあだね。」
- まいわい…万祝い。昔、大漁の時に船方が乗り子たちに配った半纏のような上着。最近はお祝いの時に贈ったりする。
- ましお…真潮。外房で,岸から海を見て左に向かって流れる潮。方向により出真潮,込真潮などがある。(⇔逆潮)
- まづめ・まずみ…夜明けや日没前後の暗い時間。魚などの活動が活発になる。
- まんが…主に砂や泥底で貝類を捕るための漁具。貝桁や腰巻き、大巻きで使用する。
- まんなおし…他の人より漁がなかったとき心機一転してまきなおすこと。「おっきゃがり」の反対。
- みずもち…水持ち群。なぶらの一種。魚群に押されて水面が盛り上がったように見えるもの。
- もじ…船のプロペラの泡。船の後ろに航跡となって現れるが。曳き縄で、カツオやキメジはこれを気にしないが、ブリなどは気にするので、縄を長く出す。
- もやい…船と船を離れないようにつなぐ。(もやい綱−縛る綱)k
- やま…1.漁場の目標物。
2.ヤナともいう。道糸のこと
- やまたて(山立て)…陸の目標物を見て海上での位置を知る方法(⇔GPS)
- よごれ…魚群探知機の反応で薄いシミのようにでるもの。
- ロラン…決まった場所からの電波の到達時間差から位置を出す装置。
- わたなべ…スマガツオのこと。何でだろう。「えっぱら」などともいう。