第3回全国青年・女性漁業者交流大会
農林水産大臣賞受賞


−千葉県−

キ ン メ ダ イ の 資 源 管 理 に 取 り 組 ん で 

 

銚子市漁業協同組合外川支所
キンメダイ・アカムツ研究会
田 邉 克 己

 

1.地域及び漁業の概要

 銚子市は千葉県北東部に位置し、東に臨む太平洋沖合には黒潮と親潮が交差する好漁場が形成され、古くから漁業が盛んな地域として全国に知られている。(図1)

 銚子市漁協は平成8年9月に銚子市内の6漁協が合併して設立され、438名の組合員は、大中型旋網、沖合底曳網及びさんま棒受網などの沖合漁業から、一本釣り、延縄及び小型底曳網などの沿岸漁業に至るまで、多種多様な漁業を営んでいる。私たちの所属する外川支所は、一本釣りや延縄などの小型船漁業が主体である。(図2)

 

2.研究会の組織及び活動

 キンメダイ・アカムツ研究会は、平成6年に発足し、キンメダイやムツ類を対象に操業する船団の中で指導的役割を担っている13名の漁業者によって構成されている。

 主な活動内容は、キンメダイやムツ類の操業に係る協議やキンメダイの生態に関する研究、その他資源管理に関する事項全般にわたる協議であり、キンメダイを中心とした銚子産魚介類のPRと魚食普及とを目的に、平成7年から実施している「きんめだい祭り」の企画・運営なども活動の一つに挙げられる。

 

3.活動課題選定の動機

 銚子沖は県内外の大型船の操業海域でもあり、小型船と大型船との操業上のトラブルが頻発していた。再三にわたる大型船との協議を重ねてきた中で、平成2年には地元沖合底曳網業者との間で、キンメダイ主漁場(通称:台形場)での沖合底曳網漁船の操業 自粛の協定が締結されるなど、現在は大型船側の自主規制と沿岸域への配慮から、大型船によるキンメダイ資源の利用は見合わされている。

 こうした中で、外川支所におけるキンメダイの水揚量は、平成4年から急増し、平成8年では281トンと、以前とは比較にならないほど増加してきている。金額面においても、キンメダイ一種で小型船全船の26%(3億1千4百万円)を占め、現在の外川支所小型船にとって、キンメダイは最重要魚種として位置付けられている。(図3)

  このような状況の下、銚子地域では現在好ましい水揚状況が続いているが、資源減少という事態に陥る前に、次代の若い漁業者へ資源を残しつつ、現在の資源状況のより有効な利用を図るため、私たち小型船漁業者にできる資源管理の実践に取り組んでいくこととなった。

 

4.活動状況

(1)標識放流:活動に当たり、まず自分たちが漁獲しているキンメダイの資源状況と移動経路を把握する必要があると考え、最も有効と思われる標識放流に取り組んだ。

  研究会が船団全船に呼びかけ、全船の約50隻総勢150人余りで標識放流に取り組み、平成6年度から8年度までの3か年で計7回実施した。その間に標識放流したキンメダイは、4,211尾と相当数に上る。(別紙:「再捕報告依頼」参照)

  平成8年11月までの再捕報告は、すべてが放流場所近辺のものであり、銚子沖漁場に棲息するキンメダイは、水温や摂餌状況の変化に伴って銚子沖漁場内を回遊するものの、広範囲にわたる移動はしないものと、当初は考えられた。

  ところが、平成8年12月に放流後508日を経過したキンメダイが千葉県勝浦沖の「キンメ場」で再捕されたとの報告を皮切りに、平成9年3月には鹿児島県屋久島沖での再捕報告が相次いで2件あり、10月には和歌山県沖の紀南礁で1尾、千葉県勝浦沖の「キンメ場」で1尾再捕されたとの報告があった。

  現時点での再捕報告は70尾、報告率は1.7%となっている。(図4)

(2)年齢組成調査:標識放流時にサンプルを持ち帰って尾叉長を測定し、千葉県広域資源管理推進指針における「尾叉長−年齢変換表」により、年齢組成を調査した。

  調査の結果、銚子沖漁場で漁獲されているキンメダイは1〜6歳魚で、その大半が2〜4歳魚であった。また、3か年の標識放流群の年齢組成を比較すると、年を経るにつれ1〜2歳魚の占める割合が減少し、魚体の大型化傾向が提示された。(図5)

(3)操業規約の策定と見直し:銚子沖キンメダイ操業に関しては、昭和62年頃より漁業者間の申し合わせにより操業方法の規制等を行ってきたが、漁業者間の内容の一層の徹底を図るため、従来からの申し合わせ事項を網羅し、規約として成文化した。

  また、規約策定に伴い、更なる資源管理への可能性についても検討し、規約を見直して新たに次の事項を追加した。(別紙:「銚子沖キンメダイ操業規約」参照)

  1.主漁場である「台形場」の禁漁期間の1か月間の延長:

   → 1〜3月までの禁漁期間を1〜4月までの4か月間とした。

  2.休漁日の追加:

   → 7〜10月までの毎週日曜日の休漁日を周年とするとともに、祝祭日についても周年休漁とした。

  3.小型魚の再放流:

   → 全長22cm以下の小型魚については、水揚げせずに放流することとした。

(4)水揚(資源)状況の把握:私たち生産者としても、水揚(資源)状況を適確に把握するために、各漁船ごとに水揚状況を報告することにした。その結果、月ごとに水揚状況の即時把握が可能となり、今後の資源管理に関する活動を展開していく上での参考とすることができるようになった。

(5)生態調査:通常の操業で漁獲したキンメダイを無作為に抽出して尾叉長を測定し、採取した鱗から調査魚の年齢を査定することにより、銚子沖キンメダイの年齢変換表の作成に努めている。

  また、調査魚を開腹し、生殖腺の重量等を調査することによる産卵期の推定、胃内容物を調べることでの摂餌環境の把握、肝臓重量等を測定して栄養状況が成長にどのくらい関与するかなどの生態に関する調査にも現在取り組んでいる。

  生殖腺重量を測定した結果、5月末には卵巣重量が100gを超える個体が数尾確認されていたが、8月末の調査時点では調査個体のすべての卵巣重量は10g前後であった。このことから、様々な報告書等にもあるように、銚子沖漁場に棲息するキンメダイの産卵期についても6〜8月の夏期であると推察された。

(6)漁場海底状況調査:キンメダイ漁場(水深約160〜300m)の海底環境等を水中ビデオカメラを使用して観察した。

  私たちは、通常、魚群探知機により海底の地形などを調べながら操業しているが、映像によって捉えられた漁場は、岩礁だけでなく、砂地などもところどころにあり、藻類も豊富で、想像していたものとはかなり異なっていた。また、漁場にはアミ類などのプランクトンも多数認められた。

 

5.波及効果

  このような資源管理に関する取り組みを実施してきた中で、キンメダイ操業への着業隻数が増加してきていることにもかかわらず、1隻1日当たりの漁獲量(CPUE)も比較的安定しており、漁獲量が減少するという事態を回避できている。(図6)

  また、漁業者の中でも数名しか持っていなかった資源管理に対する意識が、船団としての意識として芽生え始め、船団内の結束が従来にも増して強固なものとなった。

  他方では、獲った後のことも真剣に考えるようになり、今年度で3回目を数える「きんめだい祭り」の開催や、都市部でのイベントへの参画等様々な活動を展開している。これらの活動により、“銚子のキンメダイ”としてのブランド化が図られ、その結果は単価の上昇として顕著に現れているところである。(図7)

  資源管理や付加価値向上に係る活動を展開してきたことによって、青年部や婦人部活動も活発になり、銚子市外川地域を漁村全体として見渡しても、地域の活性化が図られたものと思われる。

 

6.今後の課題

  関東近海に棲息するキンメダイは同一の系群と考えられており、現在、千葉県では東京都、神奈川県及び静岡県とともにキンメダイを広域回遊魚種として位置付け、1都3県レベルで資源管理に関する協議が行われているところである。

  今回報告した私たちの活動結果においても、銚子沖漁場に棲息するキンメダイの一部は、大型化するにつれ、南下傾向があるものと推察されることから、従来までの前浜だけでの資源管理を検討するのではなく、今後はより広範囲にわたる資源管理について、関連地域の漁業者とともに検討することを考えていきたい。

  また、銚子沖漁場におけるキンメダイの若年魚の占める割合の減少傾向が提示され、銚子地域では産卵期と推察される夏場を操業期間としていることからは、産卵期や産卵場所での禁漁等による産卵親魚の保護について、今後、私たち銚子地域の漁業者が取り組むべき事項として検討していく予定である。

  銚子地域には、大型船漁業も小型船漁業もあり、全国に類を見ないほどの多種多様な漁業が営まれている。このような地域の特殊性を踏まえた上で、大型船、小型船が共存共栄できるように話し合いを続けながら、“豊かな魚の街、銚子”づくりの一翼を担えるような活動を展開をしていきたいと考えている。


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